吃音と職業、就職・就職活動

このページでは、吃音者と職業について、吃音者の就職・就職活動、吃音(どもり)と仕事の両立について、記載していきます。

基本的な考え方・心がけ

吃音者であるからと言って、就きたい職業、就職したい会社を諦めてはなりません。後述するように、工夫をすれば、なんとかなります。吃音を言い訳にしないように、とまでは言いませんが、自分らしく生きるために、以下、ご参考までにして頂けたら幸いです。

吃音者と職業(独立開業・自営業・会社経営の場合)

管理人の私の場合は、特に電話での吃音が重度で、対面、電話で自分の名前、会社名が声に出てこない重度の難発性吃音でした。吃音が辛く、何度か会社・仕事を辞めてしまい、30歳になった頃、「これからどうしよう、、、電話応対ができないし、もうまともな正社員になれるのは無理だなぁ。」と悩んでいました。幸い、私は学生時代に行政書士の資格を取得していましたし、行政書士事務所で下積みの勤務経験があったので、「いっそのこと独立しよう!そうすれば、吃音で迷惑掛けない。自分だけの問題で済む」と思い、30歳で行政書士事務所として独立・開業しました。

・独立することのメリット「自由」「責任」

会社に就職すると、どうしても、同僚、上司、部下など社内に対して常に自分の吃音を気にすることになります。独立開業すると、こうした周りの目を気にすることがなくなる点はメリットだと言えます。吃音で周りの目を気にするということ、また、プレッシャーやストレスがかかるというのは、吃音を悪化させる要因にもなるので、気を楽にして仕事できる環境にできるのは、良い面だと思います。

また、吃音者は、自分の吃音のせいで、同僚などに迷惑かけているのではないかと、自責の念を持っていることが多いのではないでしょうか。こうした自責からも解放されます。

独立すると、もちろん、全ての責任は自分にかかります。誰も助けてくれません。全ては自分次第であることは言うまでもありません。

・独立することのデメリット

私は30歳の時に独立しました。独立してから思ったデメリットを列挙すると、以下のような感じではないでしょうか。

① 収入が不安定になる。将来の不安がある。・・・会社に勤務すると、毎月の給料は保証されていますが、独立すると完全実力主義です。尚、個人事業の場合は基本的に国民年金・国民健康保険です。会社勤めのように、会社が保険料を半分負担してくれるものではないので、資産形成を意識した場合、国民年金基金、イデコといったものに加入することを検討した方が良いでしょう。

② 誰も助けてくれない。一人で起業すると、意外と寂しい。・・・個人で起業する場合、従業員を雇わない限り、基本、仕事の獲得、業務の遂行、経理、全て自分でやらねばなりません。

③ 従業員を雇ったり、事務所を構えたりした場合は、毎月固定の出費が発生します。

・独立に向いている職業・業種の考察・例

吃音者が独立するのに、独立しやすいと思う職業を考えてみました。

① 士業 ・・・ 弁護士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士。これらは資格さえ取れば、一人でも仕事ができます。無理して従業員を雇う必要もありません。

② ITシステム開発 ・・・ システムエンジニア、WEBデザイナー。プログラミング言語、サーバーなどのネットワーク知識などを習得すれば、一人でも仕事ができます。打合せ以外は、取引先とほとんどメールでのやり取りになるでしょう。たまに電話や対面、テレビ会議などで、打合せの際に話す機会はあるでしょうが、ほとんどはパソコンの前で話すことはなくできるでしょう。特にシステム開発分野は報酬単価が高い傾向にあり、仕入れなどもないので、収益化しやすいと思います。

③ イラストレーター、アニメーター、漫画家 ・・・ 絵を描く仕事です。一人でも仕事できます。

④ その他

・独立するために必要な事は?

① 開業費用(売上が入るまでの生活費・事務所家賃等の経費、運転資金)

 その他、行政書士などの資格が必要な業界は、所属会に登録費用や会費があるので注意が必要です。

② 資格が必要な業界は資格の取得

③ 心構え(他社に頼らず、一人でやっていけるという覚悟)。また、全ての人が独立に向いているというわけではありません。チームワークの方が向いている人、一匹オオカミの方が向いている人もいます。独立するにしても、人を雇う場合は人を雇う事の大変さに対する覚悟も必要です。

吃音者と職業(会社員・労働者の場合)

・向いている仕事、吃音者でもやり易い仕事

① なるべく話をしないで済む仕事

 全くコミュニケーションを取らない、人との交流を持たない事は、人の成長を妨げてしまうので、全くコミュニケーションを取らないことはおススメできるものではありません。しかし、なるべく話をしないで済む仕事を列挙するとすれば、次のような仕事が挙げられるのではないでしょうか。

IT技術者(システムエンジニア、ネットワークエンジニア)、製造業(工場のライン作業・流れ作業など)、飲食店やホテルでの食器洗浄(洗い場スタッフ)、清掃員など。

これらは、全く話さないというわけではありません。私はお皿洗いのバイトをしたことがありますが、会話が必要な場面は多少あります。ホテルの客室清掃のバイトもしたことありますが、同僚や宿泊客と話す場面もあり、清掃業であっても全く話さないで良いというものではありませんでした。

② その業界において必要な国家資格を持っている事。

例えば、不動産業(宅地建物取引業)では、宅地建物取引士の国家資格があると常用されます。理由は、不動産業(宅地建物取引業)の営業所には、業務に従事する物5人に1人以上の割合で専任の宅地建物取引士を設置することが義務付けられていて、それを守らないと営業の許可が得られないからです。その専任の宅地建物取引士を欠くと、廃業せざるを得ないほど、重要な国家資格なのです。

このような資格がないと、営業できないような重要な国家資格を持っていると、吃音があったとしても、何かの障がいをお持ちであっても、重用されるはずです。

③ 他者よりスキルが優れている事、他者より得意な事。

特段、国家資格がなくても、その人に光るもの、他者より優れているものがあれば、吃音をカバーできて上回る事があります。吃音があっても、吃音者は元々優秀な人が多い傾向があるので、吃音者であるからと言って、自分の評価を自分で下げることなく、輝く自分を見つけることができたら良いのではないでしょうか。

・吃音者には辛い仕事

言うまでもなく、話さなければならない仕事、話す仕事、話す機会が多い仕事ですよね。

営業職、テレフォンオペレーター、コールセンター、飲食店やホテル等でのサービス職、販売スタッフ、アナウンサーなど。

吃音を克服してアナウンサーになった有名人もいますので、そういう人が世に知られることは、励みになりますよね。

・就職活動はどうしたら良いか?

私も重度の吃音状態が続いていた時に就職活動をしたことがあります。その時に取った対策は次のとおりです。

① ハローワークの活用(電話で先方に取り次いでくれる)

求人に応募する際、一番最初の応募方法が、インターネットでの応募や書類審査ではなく、電話をしてから履歴書を持って行くというパターンもあると思います。その最初の応募方法が電話である際は、電話が苦手な吃音者にとっては、辛いですよね。

しかし、ハローワークを使うと、先方への応募の電話は、ハローワークの窓口スタッフさんが行ってくれます。その後、履歴書を持って面接に行ったり、郵送してから始まることになります。

このように、ハローワークを活用すると、一番苦手な最初の応募の電話をハローワークが行ってくれるというメリットがありますまた、吃音であることに相談にも乗ってくれるかもしれません。

② 書類審査や面接の時に、吃音者であることを伝える

私は、一番最初の応募方法が、先に履歴書と職務経歴書を郵送する書類審査の場合は、送り状か別紙にて、自分が吃音者であることを書くようにしました。

反応は様々で、書類審査の段階で落選したりすることもあれば、先方からその後面接日時を決めるための電話があって、その時、最低限のコミュニケーションさえ取れれば、先方が「吃音と書いてありましたが、全然大丈夫じゃないですか。」と言って頂けたりしたこともありました。意外と、自分はとても悩んでいる事でも、自分以外の周囲から見れば、そんなに対して吃音は酷くないと感じている場合があります。

自分自身の心を救うためにも、吃音は隠すことなく、自分から告白した方が自分も楽であると思います。

・・・②の続き

書類審査を経ないで、履歴書を持っていきなり面接という時や、前もって吃音者であることを伝える機会がない場合、面接で吃音者であることを伝えることがあります。

私は、吃音者であることを伝えるため、こう言いました。

「私は吃音者・ドモリでして、一番最初に自分の名前を名乗るべきでありましたが、言えなくて申し訳ありません。」と言ったところ、面接官のボスは「あなたの人間性は良く分かった!私は経営者なので、今この場で即決する。私はあなたを採用する!」と言ってくれました。数名面接官がいたのですが、他の面接官はビックリしていたのを良く覚えています。

このように、自分の弱さを素直に認め、告白することに対して、誠実さを感じて頂けるのかもしれません。逆に言えば、吃音者であったからこそ、このような話に進んでいけたのかもしれません。決して吃音者であるからと言って、諦めるのではなく、就きたい職業、就きたい仕事、入社したい会社に、どんどん勇気を持って応募して良いと思います。そのうち、本当に縁のある会社に入れると思います。

吃音と仕事の進め方、対策

・電話応対についての対策

仕事に電話は付き物です。自営業の場合は、自分しかいないので、自分が出るしかありませんが、自営業の場合は電話応対にマニュアルがあるわけではありませんので、自分の名前等が言えないようであれば、無理せず「もしもし」だけで良いとも思います。そうしたら、相手が「〇〇〇ですか?」と聞いてくれるので、「はい、そうです。」と言えば事足ります。

会社勤めの場合は、面接の時などに自分が吃音者であることを伝えていれば、周りが助けてくれて、会社にかかってくる電話は、周りが気遣ってくれて、同僚が率先して出てくれることがあります。私の場合もそうでした。優しく、理解のある素晴らしい同僚や上司に恵まれてきたものです。

・名刺交換の時の工夫

吃音者は、言い換えのできない自分の名前・会社名を言うことが困難な場合が多いと思います。私もそうです。通常であれば、自分の所属する会社名と自分の名前を言いながら名刺を渡すと思います。

→対策 単に「宜しくお願い致します。」とお辞儀しながら言う。など。自分の名前を言えなくても、渡した名刺に名前が書いてありますし、特に違和感なく、相手に不快感を与えることもないと思います。

・メールなどを存分に活用する

今の時代は、メールや、メッセージアプリが充実しているので、どんどん活用して仕事しましょう。どうしても、電話をしなければならない時がありますが、メールでも、電話の最初の時にでも、自分が吃音者であり、電話応対の時、聞きづらい時があるかもしれないですが、申し訳ありません、と伝えれば、相手は分かってくれるものです。

最後に

以上に記載したとおり、自分が吃音者であることを伝えるということは、有効な手段であるともいえます。軽度の吃音であるうちは、別に、わざわざ言う必要もないかとも思います。なぜなら、自分が気にしているほど、周りは無関心で気にしていない事が多いからです。たまに、吃音を指摘してくる人がいますが、おおむね、周りは気にしていないようです。